続・憲法って何 3

昨日は、治者と被治者との同一性ということが、民主主義の基本であるということまで、書いた。その意味するところは。

 治者とは一見、為政者のこととも思われる。為政者とは、国会議員国会、内閣、政府、そのような感じにも思われる。そして、被治者というのは国民のことと一見思われる。

 しかし、憲法上、主権は国民にある。国民主権憲法の基本中の基本である。主権者である国民が、その代表として国会議員を選挙で選ぶ。その国会議員が、法律を作り、国民は法律に従う。何故、国民は法律に従わなければならないのか。国民の代表である国会議員が国会で決めたからに他ならない。

 代表である国会議員が決めたわけだが、その意思は国民の意思と言えるからである。結局、自分で決めたのだから、それに従うのは当然のことだ。そういう論理である。治者と被治者との同一性とは、このプロセスを一言で表したのである。治者も被治者も主権者である国民であり同一である。それが民主主義である。(法律では意思の文字を使う)

これが民主主義の基本である。憲法には、民主主義を国が採用しているとは一言も書いていない。

しかし、民主主義は、専制主義よりは良いという人類の経験から、採用されているものと思われる。

民主主義、民主主義というがその意味するところは多義的であり、不明確である。多数決で決めれば、民主主義だと勘違いしている人は多い。それも一つである。しかし、横暴な数さえあれば何でも決められる、多数決で決めれば、それで良い。このようなことを多数者支配民主主義という。これがいきすぎると衆寓政治となり、時にポピュリズムといわれることになる。

国会、地方議会も全て、議論を尽くしたうえ、多数決で決める。そして法律や条例が制定される。

では、そのようなプロセスで無視されたり、時に個人の権利が侵害されたらどうするのか。たしかに、国会での多数決は多数者の意思であり、そのプロセスは最大限尊重されなければならない。なぜなら、自分で決めたからにほかならない。この政治過程のことを、投票箱と民主政の過程ということがある。

では、時に投票箱と民主政のプロセスの中で、侵害された個人の権利はどこが守ってくれるのだろうか。その時、登場するのが最高裁判所を頂点とする司法権である。

自分の権利が侵害された。たとえば公立中学校の男子が丸刈りを強要されたとする。髪型も年頃の男子生徒にとっては、その人格を形成する重要な部分であるかもしれない。公立中学校に入学する際、丸刈りを強要されることは、自分の人格を侵害するものとして、裁判所に救済を求めるのが筋である。もちろん、そうなる前に学校長と話したり、いろんな解決手段はあるかもしれない。

そんな個人のわがまま、どうでも良いのではないか、そう思われる方も多いかもしれない。しかし、日本国憲法には、民主主義については一言も触れてはいないが、基本的人権の尊重、個人の権利の尊重についてはきめ細かく書かれている。

髪型とはいえ、馬鹿にはできない。憲法には、髪型については書いてはいないが、いろいろな権利について、書かれている。このことを人権のカタログと言い、特に重要な人権、過去に権力によって侵害された権利について、あたかもカタログのように書かれている。さらに、それにとどまらない。カタログに書かれていない人権については13条で幸福追求権として、広く保障しようとしたと思われる。

内心の自由表現の自由、信教の自由、学問の自由、過去に国家権力によって踏みにじられた重要な人権ばかりである。

最近、憲法改正の問題が浮上してきているが、その際、憲法が国家権力を制限するものだとか、国家権力を縛るものだということを、多くのテレビコメンテーターが口にするようになっている。はじめて、そのことをお聞きになった国民の方も多いかもしれない。

まさに憲法は、前述の個人の権利を守るために(保障するために)国家権力に縛りをかけている。その手段として、国家権力を分散している。このことを、権力分立という。権力が分立されていなかったら、どうなるだろうか。江戸時代のお白洲みたいなものか。裁判官が犯人を捕まえ、裁き、闇へと葬りさる。そのようなことが起こってしまう。

日本国憲法は、個人の基本的人権の尊重を最大の目的として、その手段として権力を分散している。これが憲法の仕組みである。

そして、その憲法を国家権力に尊重し擁護するように求めている。決して国民には、憲法を尊重し擁護すべきとはしていない。国民は、法律を守らなければならないが、憲法について尊重しろとは書いていない。是非、憲法99条を一度、見ていただきたい。そこに憲法を尊重し擁護すべき義務のあるものが掲げられているが、その中には国民は入っていない。憲法を踏みにじる危険性を有する権力を有するものが掲げられている。このことをもってしても、憲法が権力を縛るものであることがわかる。

ここら辺が分かると、結構、憲法って良くできてるのかな、と思えてくる。